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農家の相続~よくある相続のトラブル事例とその対策~

農家の相続農地は、食料の安定供給にも関わる問題につながるため、農地法という法律で特別な手続きが定められており、相続にあたっての手続きも少し複雑です。農家の方が亡くなった場合は、この農地が相続財産に含まれているため、一般的な宅地などの相続とは異なる点があります。そこで、この記事では農家の相続に関するポイントをご説明します。

農家の相続はもめやすい?

農地を相続する場合は以下のようなケースがあり、相続手続きが難航したり、相続人の話し合いが簡単にまとまらないことがあります。

誰も農業を引き継がないケース

被相続人が農業を行っていたとしても、子どもたちがそれを引き継いでいるとは限りません。新潟県でも農業人口は減少傾向にあり、特に若い世代に実家の農業を引き継ぐという方はどんどん減っています。

新潟県でも若い世代が東京などに進出し、地元新潟に戻ってくる方は少なくなっています。生活の拠点が新潟にない以上、その農地の取得を希望することは考えられません。

子どもたちが農業を引き継いでいなくとも、その農地を利用する方がいれば、その農地を貸し付けることができますが、この利用する方も減少傾向にあります。誰も耕作をしなければ耕作放棄地となり、荒れ果ててしまいます。

農業を誰も引き継がない場合は、農地の取得を誰も希望せず、相続人間で互いに農地の取得を押し付け合うようなことも発生します。

遺産分割方法がまとまらないケース

上記のように、農業を誰も引き継がないケースは、遺産分割協議がまとまりません。

また、農家の相続の場合、相続財産の大半が農地という場合があります。後述しますが、農地は簡単に売却することができませんし、場所によっては評価額が高額になる場合もあります。売却が難しいにもかかわらず、相続財産全体の評価額が高額になってしまうのです。

そのため、法定相続分で分割しようと試みても、一般的な宅地のように、売却してその売却代金を相続人間で分けるという解決方法がとりにくいという難点があります。

現金や預貯金が残されていれば解決の余地はでてきますが、農地が相続財産の大半を占めている場合は、その評価額と相続人が実際に受取する額面との間にギャップが生じてしまい、不満が生じやすいといえます。

評価額が高額になるケース

農地の固定資産税評価額をみると、宅地よりも低く設定されていることが多いかと思います。

そのため、かりに農地が住宅地にあるようなケースでも、低い固定資産税評価額をベースとして相続税評価額を計算すればよいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、実務上はそのような計算は行いません。

市街地にある農地は、「宅地」に準じた相続税評価額になることが多くあります。そのため、固定資産税評価額をベースとして、相続財産の評価額を判断すると、予想よりも相続財産評価が高額になる場合があるのです。

※もっとも、相続税の申告にあたっては、評価額を減額する算定方法があります。

売却や転用が簡単にできないケース

農業を引き継いでくれる人が減少していることから、農地は簡単に売却ができません。

また、農地は、一般的な宅地と異なり、農地法という法律により様々な制約があります。例えば、農地を宅地に転用したり、農家ではない人に売買したりすることについては、農業委員会の許可など一定の制約が課されています。

「相続財産に農地が含まれているけど、ほしいと言っている人がいるから、相続をした上で売却しよう」と安易に考えないことも重要です。きちんと必要な手続きを調査しなければなりません。

農地を相続するときに必要な手続きとは

税務署への申告

まず、農業をされている方は多数の農地が相続財産に含まれていることが多く、相続税評価額が高額になり、相続税が発生することが多くあります。

そのため、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、所轄の税務署に相続税の申告をしなければなりません。

法務局での相続登記手続き

農地を相続した場合は、宅地などを相続した場合と同様に、その不動産の所在地を管轄する法務局で、不動産の名義人を変更する手続き(所有権移転登記)をしなければなりません。

通常、農地を売買などで取得した場合は、登記申請するにあたって、農業委員会の許可を取得しなければなりません。この農業委員会の許可がなければ、売買契約が無効となってしまい、登記を受け付けてもらえません。

しかし、被相続人が所有している農地を、法定相続人が相続によって取得した場合は、売買によって取得した場合と異なり、農業委員会の許可は不要です。

ただし、法定相続人でない人が相続する場合は、農業委員会の許可が必要になりますので、あらかじめ農業委員会に確認をとりましょう。

農地を相続で取得した場合「所有権移転登記手続き」を行う必要があります。この登記手続きをする際に納める登録免許税の額は「固定資産税評価額×0.4%」です。

登記申請するにあたっては、被相続人の戸籍謄本、住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本などを提出する必要があります。

また、相続人が複数人いて、その話し合いによって相続人の誰が農地を取得するのか決めた場合には、その「遺産分割協議書」を一緒に提出します。

被相続人が生前に作成した遺言書によって取得した場合は、その「遺言書」の添付が必要です。

農業委員会への届出

農業委員会は、法律に定められている組織で、農地に関する事務を担当するため、各市町村に設置されています。農地は食料の安定供給に関わるものであるため、農業委員会が農地の無秩序な開発や宅地への転用などを監視・抑止するためです。

新潟市に設置されている各農業委員会の問い合わせ先は以下のとおりです。

  • 北区事務所 025-387-1575
  • 中央事務所 025-382-4974
  • 秋葉区事務所 0250-25-5520
  • 南区事務所 025-372-6791
  • 西区事務所 025-264-7811
  • 西蒲区事務所 0256-72-8642

相続によって農地の所有者が変わった場合は、農業委員会に届出をする必要があります。

届出は、「被相続人が死亡したことを知った時点から10か月以内に行うとされています。手数料はかかりません。届出をしない場合や虚偽の届出をした場合には、「10万円以下の過料」という罰則も定められていますので注意ください。

農業委員会へ相続の届出をする場合は、所定の届出書とともに、法務局で相続登記済みの登記簿謄本など、相続したことが確認できる書面を提出します。

農業を引き継ぐ場合の相続税の猶予などについて

農業を引き継ぐ場合は、農地にかかる部分の相続税が猶予される制度があります。

農地の納税猶予の特例

農地の納税猶予の特例は、農地を引き継いだ相続人が引き続き農業をする場合などに適用できます。

一定の条件を満たした場合は、農地にかかる部分の相続税が猶予され、最終的に、相続人が死亡するまで農業を続けたなどの場合には、相続人にかかる分の相続税は免除されます。

農地の納税猶予が適用される条件とは?

「被相続人」「相続人」「農地」のそれぞれの要件を満たす必要があります。

「被相続人」について

・死亡日まで農業を営んでいた

・生前に、相続人に農地を一括贈与した

・死亡日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人、または、農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、農業を営むのが困難な状況で営農困難時貸付を行っていて、税務署長に届出をした

・死亡日まで特定貸付を行っていた

「相続人」について

・相続税の申告期限までに農地を引き継ぎ、農業を継続している

・相続税の申告期限までに、相続した農地を特定貸付している

・被相続人から生前に農地を一括贈与され、贈与税の特例が適用されている

「農地」について

・相続税の申告期限までに遺産分割が終了している

・被相続人の生前に一括贈与された場合、贈与税の特例が適用されている

・相続のあった年に、被相続人から一括贈与されている

農地の納税猶予の適用を受けるために必要な手続きとは?

相続税の申告書に必要な事項を記入するほか、特例の適用条件を満たしていることを証明する書類を添付して申告期限内に提出します。

そして、猶予される税額と利子税の金額にみあった担保の提供が必要です。

納税猶予が受けられた後は、3年目ごとに、引き続き猶予特例を受けるための「継続届出書」を提出しなければなりません。

農業を引き継がない場合に考えるべきこと

相続放棄

農地を引き継がない場合は、相続放棄をすることも一つです。

重要な点は、相続放棄は一切の相続財産を引き継がないという手続きであるということです。「相続財産のうち、宅地はほしいけど、農地はいらない」という場合は、相続放棄ではなく、遺産分割を行う必要があります。

相続放棄を行うことで、上記で述べたような農地の問題に関与しなくてもよくなります。

しかし、相続放棄は死亡したことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。非常に短期間のうちに判断をしなければならないのです。

一度した相続放棄を撤回することはできませんので、よく考えて相続放棄手続きを行いましょう。

売却

農地を売却する方法も一つです。

後述する「宅地に転用してから売却する」という場合と比べて、売却する相手が限定されるデメリットがあります。具体的には、農地を売却できる相手は、「営農計画を持っていること」や「必要な農作業に常時従事すること」などの要件を満たした個人や農地所有適格法人に限られています。

また、農地をそのまま売却する場合は、事前に農業委員会の許可などの手続きも必要です。

詳しくは、担当の農業委員会に確認しましょう。

転用

用とは、土地の用途を変更することです。

農地から宅地に転用することで、住宅やアパートを建築することもできます。

この転用する場合は、事前に農業委員会への許可申請をしなければなりません。

市街化区域の農地であれば宅地への転用もしやすいといえます。

他方で、市街化調整区域など、許可が下りにくい場合もあります。

まとめ

農地は農業委員会の許可が必要であってり、相続税の申告においても特別な制度があるなど、特殊な取り扱いが必要です。

相続税の申告については税理士への依頼は必要であることはもちろんですが、その分割の方法など検討すべき課題が多くあります。

 農地を相続する可能性がある方は、早期に弁護士にご相談することをお勧めします。 
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五十嵐 勇

五十嵐 勇

新潟県加茂市出身 新潟県立三条高校 卒業 新潟大学法学部法学科 卒業 九州大学法科大学院 修了 弁護士登録(66期)