漁師の相続 ~ご家族・ご親族が漁業に関する事業に従事していた方へ~
漁師を営んでいる方が亡くなり、相続が発生した場合は、預貯金やご自宅の土地建物といった財産のほかに、漁師の方特有の財産が含まれるため注意が必要です。新潟県には漁業を営むことが多いことから、新潟県にお住まいでご両親が漁師だった方や、ご自身も漁業を営んでいらっしゃる方々など、相続が発生する全ての漁業関係者のみなさまのために漁業と相続に特化したページをつくり、情報発信をすることにしました。
目次
漁業に携わっていた被相続人のよくある遺産とは
漁師だった方が亡くなった場合、サラリーマンの方が亡くなった場合とは異なった遺産が出てくることが多いです。よくある遺産は
- 漁業権
- 船舶(漁船など)
- 水産加工工場・営業所・店舗など
- 金融資産(預金・現金・株式)
- 自宅不動産など
5種類です。
ここでは特に①~③の漁業に特に関わりが強い財産の相続方法と、注意点を解説いたします。
① 漁業権
漁業権とは
漁師の方は「漁業権」を持っています。
漁業権は、「一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利」のことをいい、「定置漁業権」、」区画漁業権」及び「共同漁業権」の3種類があります。漁師の方は、この漁業権を取得することで、事業を営んでいるわけです。
必要な相続手続き
漁業権も「権利」ですので、相続財産に含まれます。つまり、亡くなられた方が遺言を残していなければ、相続人全員の共有の状態になりますから、相続手続きが必要です。
新潟県の場合、漁業の許可を受けた者が死亡した場合、以下の手続が必要です(調整規則第17条)
注意しなければならないのが、相続手続きは、相続の日、つまり被相続人が死亡した日から2カ月以内に届出をしなければならないという点です。
必要書類は以下のとおりとされています(実際に申請をされる方は、新潟県に必ずお問合せください。)
② 船舶(漁船)
漁船とは
漁師の方が漁船を所有しているかどうかを確認しましょう。漁船は管轄する都道府県に対して登録が必要とされていますので、その登録原簿や登録証をチェックすることで、所有者を確認することができます。
必要な相続手続き
漁船は、自動車などと違って、漁船の所有者が死亡したとき、登録の効力が失われてしまいます。そのため、死亡から1カ月以内に登録の申請を行わなければなりません。
この申請に必要な書類は以下のとおりとされています(実際に申請をされる方は、新潟県に必ずお問合せください。)
意書)、⑤相続者及び相続権放棄者全員の印鑑登録証明書新潟県漁船関係事務取扱要領
③ 水産加工工場・営業所・店舗など
漁師を営んでいる方が、水産加工工場・営業所・店舗等を営んでいる場合は以下の対応が必要になります。
株式や営業権について
水産加工工場・営業所・店舗等を営んでいる主体が「株式会社」などの法人である場合、これらの法人の「株式」があります。法人の規模にもよりますが、株主が被相続人一人だけ、つまり、被相続人が100%株主であることも考えられます。
そうした場合、この株式も遺産に含まれますので、この株式に関する遺産分割協議が必要となります。その上で、株式会社であれば、会社の「株主名簿」の名義書き換えが必要です。
また、被相続人が法人の役員、例えば、株式会社でいえば「取締役」や「代表取締役」である場合の注意点を説明します。株式会社と取締役とは委任の関係にあるため、取締役が死亡した場合、委任契約は自動的に終了します。したがって、取締役が1名減ることになります。
取締役の定足数が定款で定められており、その人数を欠く場合には、速やかに取締役を選任しなければなりません。特に、取締役が被相続人一人である場合、取締役が不在となり、株式会社を運営することができなくなります。
株主全員の同意が得られる場合は、招集手続を省略して株主総会を開催して取締役を選任するか、あるいは、株主総会を開催せず、いわゆる持ち回り決議によって取締役を選任します。
株主全員の同意得られない場合には、少数株主によって株主総会を招集するか、あるいは、株主などの利害関係人が裁判所に対して一時取締役の選任を申立てる必要があります。
取締役を選任した後、法務局に対して役員変更の登記を行う必要があります。取締役が死亡した場合は死亡した旨の登記を2週間以内にしなければならず(会社法915条1項)、この登記を懈怠した場合は「過料」が課される場合もあります(会社法976条)。忘れずに登記をしましょう。
かりに、水産加工工場・営業所・店舗等を営んでいる主体が被相続人個人である場合は、これらの事業に関する「営業権」というものが相続財産に含まれます。この営業権を誰が承継するのかを遺産分割協議において決めなければなりません。また、相続税の申告にあたっても「営業権」というものも適切な評価が必要となります。
所有権等について
水産加工工場・営業所・店舗等の不動産を被相続人個人で所有している場合、これらの不動産も遺産に含まれますから、遺産分割協議の対象です。遺産分割協議が成立次第、所有者の名義変更を行う必要があります。
五十嵐 勇
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