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高齢者破産 弁護士 宮本 裕将

IMG_0259 - コピー.JPG 最近、高齢者破産と言うことが話題になっているそうです。

いろいろな事例があるのでしょうが、先日、テレビで紹介されたケースの一つは、退職金を元手に資産を増やそうと投資信託などの投資をして、結局、3000万円くらいの退職金が何分の一になってしまったという事例でした。

また、やはり退職金で飲食店など事業を始めたが、売上げがあがらず、大幅な持ち出しを余儀なくされているという事例も紹介されていました。

最初の例ですが、資産を増やそうとした理由が子供の将来のためできるだけ多くの財産を残してあげたいという動機の方が多いのだそうです。

若い頃から、投資経験を積み、様々な勉強や情報収集、投資の基礎の体得などされてきたような方が、老後、退職金を元手に、たっぷりある時間を活用し、さらに投資に励まれるというのであればそれはそれで、もちろん自己責任でということで他人がとやかく言うことはないとは思います。

ただ、今までさしたる経験や知識、訓練がない方が退職金が入ったからと言って、にわかに多額の投資を始めるとしたら、あまりにも危険と言わざるを得ません。株式投資を初め、いわゆるFXなど為替取引などはもちろん、銀行が扱っている投資信託などですら、相当のリスクがあると言わざるを得ません。

そのような金融商品の取引は、金融機関で扱っているものでも、現金を定期預金などにしておくのとは本質的にまったく異なるものだと認識された方がよいと思います。

為替取引などはもちろんですが、一般の日本株の取引についても、資金があれば誰でも容易に儲かるというものではありません。

昔は銀行の定期預金や郵便局の定額預金の金利が6%、7%という時代もありましたから、預金にしておくだけで、相当の金利収入が見込めたこともありましたので、そのようなイメージで投資信託などをお考えになっている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、株式や株式で運用する投資信託、その他債券や債券で運用する投資信託にしても、金融商品としてはリスクがあり、実質的に元本が保証されているとは言えないものです。確かに、いわゆる債券は基本的、理論的には最終的には元本が保証されているとは言えますが、為替リスクがある場合もありますし、これらを運用する投資信託などが安定的に元本が保証されており、いつでも投資した元本を下回らない額で換金されるというものではないのです。

投資対象として、一番身近と言える日本株式においても、この投資により利益を上げていくというのは大変なことです。

資金を投資して株式を購入し、保有しておけば原則的に利益が出てくる、値段が上がってくるとは到底言えません。戦後から1989年頃までの間であれば、成長しそうな銘柄を購入し、それを持ち続けるだけで大きな資産を作ることができたということは確かにありましたが、それとて後付けの話しであって、現実には当時でも簡単にできたわけではありません。

ましてや、バブルつぶしを発端として始まり、現在に至るデフレ経済下において、資産価格の安定的高騰は期待できないのは当然ですから、単に株式や不動産をただ持ち続けたとしても、資産形成どころか、価格下落による実質的な資産の目減りにさらされ続けることは必至です。日経平均株価は最高時から5分の1位まで下落したわけです。だいぶ戻したとは言え、現在の平均株価は最高時の半分をまだかなり下回っている水準です。(今後、来年以降、さらに全般的にあがるかどうかはわかりませんが。)

株式市場に変化が起きたときに、その話題が取り上げられることがあります。その際のマスコミの論調や自分で本格的な投資をしたことがないと思われる方々のコメントなどが報道されますが、実態とはあまりにもかけ離れた認識に基づいた発言をされていると思われ、大きな違和感を感じることがほとんどです。

そのように市場や投資の実情を知らないまま、まとまった資金さえあれば容易に株式投資でお金が増やせると思い、退職金をさらに増やそうと投資を始められると言う方も多いのかもしれません。

あるいは証券会社や金融機関の人は投資のプロで、そのプロの勧めで金融商品等を購入すればかなりの高い確率で利益が見込める、と考え、そのような前提で投資をしようという方も多いかもしれません。しかし、少なくとも私の経験や認識では、そのようなことは言えないと考えています。

日本株の株式投資だけに限っても、市場の仕組み、投資方法の基本や情報の見方、ファンダメンタル及びテクニカルでの基礎など、やる以上は身につけるべきものがあります。

ゴルフなどスポーツを始めるにも、楽器演奏を始めるにも、基本があります。学ぶにもしっかりした指導者について基本からみっちりやらなければ、実力をつけ、成果をあげることはできないはずです。投資もそれと同様、むしろ、それ以上に、そのような態度が必要となります。大切なお金を扱い、リスクにさらすのですから、趣味でやるようなことの何倍も時間を使い、努力を重ねるべきだと思いますが、大半の方はそのような意識もなく、勧められるままに投資をしていることが多いのではないでしょうか。

老後の生活や子供たちの支援のための退職金などを、危険にさらすような投資行為は控えるべきだと思います。

やるのであれば、本格的に腹を決め、しっかりした指導者に就くなり、堅実な研究会に加入し、基本についての書籍等でも勉強しながら、基本を身につけ、相場観を養い、さらに余裕資金の10~20%くらいの資金の中で始められるのがよいと思います。

事業をおやりになるとしても、やはり十分な準備をした上で、誠実な指導者をみつけて、資金も十分余裕をみて、控えめな事業計画を立てられて、確実性の高い条件で行われるのがいいのではないでしょうか。
高齢者の方に限りませんが、もし、仮に投資や事業に失敗して資金がなくなりそうだというような場合、さらに親族、親戚や友人などに資金の融通を頼むという方もいますが、結果的にはその方たちも巻き込んで、金銭的な迷惑をかけてしまうことになるのが必至です。

債務が大きくなって、自分の力では返済が不能となったときは、自己破産などにより解決すると言うことを決断すべきだと思います。

いずれにしましても、退職金や長年かかって貯蓄した資金などを使って、投資や事業を始めようというのであれば、十分な準備と研鑽をした上で、慎重になされるべきだと思います。

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