相続財産清算人とは?
質 問
私は不動産の売買等を行っています。ある土地を購入したいのですが、登記上所有者となっている方はすでにお亡くなりになっているらしく、近所の方に聞き込みをしても、どうやら相続人の方がいらっしゃらないようです。 このような不動産を購入する方法はないのでしょうか。教えてください。 |
回 答
相続財産清算人を申立てる方法が考えられます。この記事では、相続財産管理人について弁護士が解説します。
なお、令和 3 年 4 月 21 日に成立した改正された民法で、相続人不存在の場合における相続財産の管理は「相続財産清算人」という名称に変更されています(改正民法 952 条 1 項)
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相続財産清算人とは?
相続財産清算人とは、相続人がいない相続財産(遺産)を、債権者等に対して被相続人の債務等を支払ったりして、残った財産を国庫へ帰属させる役割を担っています。
どのような場合に相続財産清算人が必要となるの?
この記事の最初にあげた事例のように、特定の不動産を購入したいという場合のほか、以下のような場合に相続財産清算人が利用されています。
・債権者が被相続人に貸していたお金を回収したい場合
・遺言で特定の財産を与えられる旨定められた方(特定受遺者)が遺産を受け取る場合
・被相続人の看病していた等特別な縁故がある人(特別縁故者)が財産分与を請求する場合
特別縁故者-特別縁故者として、被相続人の財産から7000万円の財産分与を受けた事例はこちら≫
・相続放棄した人が被相続人名義の相続財産の管理義務を免れたいとき
相続財産清算人はどういったことができるの?
相続財産清算人の大まかな業務は以下のとおりです。
・相続財産の調査
・相続財産の管理
・相続人の存否の調査
・相続財産の清算
・残余財産を国庫に引き継ぐ
簡単に言うと、相続人や相続財産を調査して、不動産、預貯金、車などの換価できる財産があればそれを売却するなどしてお金に変えて、また、滞納している税金や借金などの債務があれば返済をするという業務を行います。
債務を全て支払ってもまだ財産が残る場合(残余財産)は、これを国庫に帰属するという手続きをとります。
もっとも、これらは清算人が自分で自由にできるというわけではなく、処分行為、具体的には、不動産の売却、株式の売却、定期預金の満期前の解約等については、相続財産清算人が裁判所に許可を得た上で行わなければなりません(これを「権限外行為許可」といいます)。
例えば、最初にご紹介した不動産を購入したいという場合は、どんな価格でも買うことができるというわけではなく、あくまで裁判所が許可した金額ということになります。通常、裁判所が不動産売却の許可を出す場合には、相続財産管理人から、固定資産評価額のほかに、市場性がある物件の場合は2社程度の不動産業者の査定書を提出することが多い印象です(必要な書類はケースバイケースとお考えください)。
相続財産清算人は自動的に選ばれるの?
いえ、自動的に選ばれるわけではありません。申立てがなければ、選任されることはありません。
利害関係人が、被相続人の最後の所在地を管轄する裁判所に、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
例えば、被相続人の最後の住所が新潟市中央区である場合は、新潟家庭裁判所に申立てをすることになります。
「利害関係人」とは、例えば、不動産を購入したいという方であればその買受希望者、特別縁故の財産分与を主張したい場合はその特別縁故者を主張される方、借金の回収をしたいという場合は被相続人の債権者といった方が「利害関係人」に該当する場合が多いです。
なお、法律上は検察官も申立てができるとされていますが、国が公益目的のために相続財産清算人の申立てが必要な場合があるため、このように規定されています。検察官が申し立てることはできますが、検察官に「申立てをしてください」とお願いをしても、弁護士のように代理人として動いてくれるわけではありません。
相続財産清算人には誰がなるの?
裁判所が判断をしますが、弁護士が就任することが多いです。
相続財産清算人の業務は複雑多岐にわたりますし、専門的な判断が必要となる場合が多いです。そのため、裁判所は弁護士を選任することが一般的です。
どういう場合に相続財産清算人を申し立てることができるの?
①相続人がいないケース
②相続人全員が相続放棄をしたケース
以上の2つのケースが考えられます。
なお、相続財産清算人が選任された後であっても、相続人がいることが判明した場合は、相続財産清算人の権限は消滅します(民法第 956 条第 1 項)。
相続財産清算人を申し立てに必要な書類は何ですか?
申立書のほか、以下の書類の提出が必要です。
なお、以下の書類以外にも、事案によって裁判所から追加で提出を求められるものもあります。
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の父母出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
相続財産清算人の手続きの流れについて
家庭裁判所により相続財産清算人が選任されると、以下のような手続きの流れで、相続財産が清算されます。
① 選任されたことが公告される
相続財産清算人を選任した家庭裁判所は、遅滞なく、相続財産清算人が選任されたことや、相続人がいる場合は 6 か月以内に申出をするよう公告をします(民法第 952 条第 2 項)。
もし、相続人が名乗り出るなどして判明し、その相続を承認すれば、その時点で相続財産清算人の代理権は消滅します(民法第 956 条第 1 項)。
相続財産清算人は相続財産を管理しなければなりません。また、相続財産の内容を調査して、相続財産目録を作成しなければなりませんし、(民法第 953 条、第 27 条第 1 項)、裁判所に報告する義務があります。
③ 債権者・受遺者に向けた弁済申出の公告・催告
相続財産清算人の選任公告後、2 か月以内に相続人が判明しなかった場合、相続財産清算人は遅滞なく、相続債権者・受遺者に対し、一定期間内に請求を申し出るべき旨の公告を行います(民法第 957 条第 1 項)。公告期間は 2 か月以上に設定されます。
要するに、「債権を持っている人は、申出てくださいね。申出がない場合は今後債権者として取り扱いしませんよ。」と公にアナウンスをするわけです。
なお、相続財産清算人が把握している相続債権者・受遺者に対しては、個別に弁済申出の催告が行われます(民法第 957 条第 2 項、第 927 条第 3 項)。
④ 相続人捜索の公告
上記の弁済申出の公告期間が終了して、それでもなお相続人が判明しなかった場合、家庭裁判所が相続財産清算人は相続人の捜索の公告を行います(民法第958 条)。公告期間は 6 か月以上に設定されます。相続人の捜索の公告期間が満了するまでに判明しなかった相続人・相続債権者・受遺者は、その権利を行使することができません(民法第 958 条)。
⑤ 特別縁故者への財産分与
被相続人と特別の縁故があった者は、相続人捜索の公告期間満了後 3 か月以内に、家庭裁判所に対して、財産分与を請求します。裁判所は、当該請求の内容を検討して、財産分与をするかどうか、するとしてどの程度の財産分与をするのかを判断します。
⑥国庫帰属
上記の手続きが完了したのち、財産が残っている場合(残余財産がある場合)は、国庫帰属の手続きを取る必要があります。
⑦ 終了
相続財産清算人は、全ての業務が完了したら、裁判所に報告を行います。
相続財産清算人に必要な費用は?
①裁判所の手数料
・収入印紙 800 円分
・郵便切手(※裁判所により異なりますので、申立てをする裁判所に問い合わせをする必要があります。おおよそ 1000~2000 円とされることが多いです。)
・官報公告料 5075 円
※その他、事案により相続財産清算人の業務を円滑に進めるために必要な費用が発生する場合はその分を裁判所に納めるよう指示を受ける場合があります。
②相続財産清算人の報酬
業務内容等に応じて裁判所が決定するため、明確に決まった基準が公表されているわけではありまん。一般的には 20 万円~100 万円程度とされていますが、財産額や業務量等により異なりますので、目安程度にお考えください。これは申立てにあたり、裁判所に納付する必要があります。
ただし、例えば、預貯金の解約や不動産の売却が確実に可能であり、その財産から相続財産清算人の報酬を支払うことができる見込みであれば、納付が不要か、あるいは、納付しても事後的に返還される場合があります。
③申立てをする弁護士の費用
弁護士法人美咲総合法律税務事務所では、相続財産清算人の申立て費用を 33 万円(実費別)としております。
相続財産清算人・不在者財産管理人申立てパック
費用 | 業務内容・備考 | |
相続財産清算人 不在者財産管理人 申立てパック |
33万円 | ・戸籍等の取得 ・申立書類の作成 ・その他必要書類の取得 ・家庭裁判所に対する申立書等の提出 ・家庭裁判所との連絡窓口※別途予納金等が必要です。 ※実費別 |
まとめ
相続人全員が相続放棄をしていたり、また、相続人が不明な場合であったりしても、相続財産清算人を申し立てることで、例えば、被相続人名義の不動産を購入することができたり、借金の回収をすることができる場合があります。
まずは弁護士にご相談することをお勧めいたします。
掲載日2023年8月3日