遺言・遺言執行
1 遺言作成の必要性
相続紛争を避けるためには、遺言を作成することが重要だと言われます。
しかし、なぜ遺言を作成することによって相続紛争を避けることができるのでしょうか。
それは、相続紛争の多くが、相続に関する故人の思いが分からないことによって発生するためです。
例えば、民法上、親の相続における子の法定相続分は平等とされています。しかし、子が複数いれば、実家に残り親と同居する子と、実家を出る子がいるのが一般的だと思います。そして、実家にいる子からすれば、自分は親と同居して面倒を見るなど大変な思いをしていると考えるものですし、実家を出た子からすれば、親と同居していることによって、経済的な恩恵を受けている、あるいは受けているのではないかと思ってしますものです。
遺言を作成しないままお亡くなりになってしまうと、この感情のもつれが遺産分割協議を通じてより大きくなり、話し合いでは決着が付かず、相続紛争となってしまうのです。
そこで、親として、子どもに平等に与えるのか、実家にいて苦労をかけた子に多く与えるのか、また今まで十分与えることのできなかった実家にいない子に多く与えるのかを、遺言を作成することによって、しっかりと示すことが必要なのです。
親から見れば、兄弟が遺産を巡って争うことなど想像できないかもしれません。
しかし、子どもの頃ならまだしも、独立して家庭をもった子どもたちであれば、考え方も感じ方も異なります。
したがって、自分のところは大丈夫などと思わずに、遺言を作成することが必要なのです。
また、遺言を作成しない場合には、遺産は法定相続分にしたがって相続人に相続されます。
そのため、相続人ではないが世話になった親族や、その他の人に遺産を残したいと考える場合には、遺言の作成が必須となります。
遺言書の作成を弁護士に依頼するべき理由は?
「子どもの仲が悪いので、トラブルを未然に防ぐために遺言書を作りたい」「法定相続とは違う形で自分の財産を譲りたい」このようなお悩みをお抱えの方からご相談を頂くこともあります。
一方で、親の財産を相続する子どもの側からも、「親が自分の望んでいるような形の相続をしてくれるのか心配」「兄弟に親の財産を奪われてしまうのではないか?」などのようなご相談を頂くこともあります。
相続においては、相続する側にも、相続されるに側にも上記のような心配が付きまとうものです。「相続はもめると聞くけれど、自分のところは大丈夫」とお思いになられている方こそ、実際には相続が発生した場合に、財産が絡んできたときに兄弟の態度が急変したということはよくある話です。
また、相続の問題は非常に根が深い問題で法律だけでは解決ができない感情の問題が多く含まれていますので、一度兄弟間でもめてしまうと、その後に関係性を修復することができず一切話をしなくなってしまったということもあります。
このような相続トラブルを未然に防ぐためには、「遺言を書く」あるいは、「遺言を作成してもらう」ことが重要になります。
しかし、実際には遺言はほとんどの方が初めて作成するものであるため、法律的に有効な遺言書を書くためにはどうすれば良いのかは分からないということが多いです。
よく分からないまま遺言書を作成してしまったがために、法律的には無効な遺言書を残してしまったということを発生させないためにも、まずは相続に関する法律の専門家の弁護士にご相談されることをお勧め致します。
遺言書の種類
「遺言」と聞くと、老後になってからお書きになるというイメージが強いと思いますが、遺言は満15歳に達した人であれば、原則として誰でも作成することが可能です。また、遺言に何を書くかは遺言者の自由ですが、法的な効果が発生する行為は限定されており、例えば、「兄弟の仲を良くする」というような道義的な遺言は、遺言に記載されていたとしても、法律上の効果はありません。
また、遺言では一定の要件を満たした書き方をしていないと「無効」となってしまいます。遺言書の種類は一般的なもので3種類あり、3種類それぞれにおいて成立させるための要件が異なっていますので、注意が必要です。
1.自筆証書遺言
最も手軽に書くことができる遺言書で、遺言者自身が自ら手で書き、署名・押印をするだけで作成することができる方法です。自筆証書遺言は、内容や日付、署名の全てが遺言者の自筆である必要があります。なお、自筆証書遺言の作成に当たっては、作成年月日のない自筆証書遺言は無効になりますので、必ず作成年月日を記入するよう注意が必要です。
2.公正証書遺言
公正証書遺言は、証人2名以上の立会いの下に、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が遺言者の口述内容を筆記する方法です。公正証書遺言の場合、公証人が作成を行ないますので、作成後に遺言者と証人に読む、あるいは閲覧して作成内容を確認します。確認が完了いたしましたら、遺言者と証人が署名と押印をし、最後に公証人が署名と押印を行ないます。
公正証書遺言は基本的に公証役場で作成することが原則ですが、寝たきりで介護が必要な方など、公証役場まで出向くことが困難な場合には、公証人が家や病院まで訪問してくれる場合もあります。
3.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を遺言者自らが記載するため、遺言者以外に知られることが無く作成できる方法です。作成した証書は封筒に入れ、証書に使ったものと同じ印章で封印します。その際、封入、封印は遺言者自身で行なうことが必要です。証書の封印が完了いたしましたら、一度公証役場で遺言の存在を確認することが必要になります。その際、公証人1名と2名以上の証人も必要になります。
公証人が証書の提出された日付と遺言者の申述内容を封書に記載し、遺言者、公証人、証人がともに署名・押印をすれば秘密証書遺言の完成です。
以上の方式以外の遺言書もあり、遺言の書き方も複数ありますが、一般的に最も信頼できる方法は「公正証書遺言」です。公正証書遺言の原本は、公正証書にて保管されますから、偽造、紛失のリスクを回避できる信頼できる手続きであるといえます。
2 遺言執行
遺言の内容を実現するためには、不動産の名義変更や預金の解約などの手続をとらなければなりません。この遺言の内容を実現するための行為を遺言の執行といいます。
この遺言の執行は、相続人自身が、あるいは互いに協力して行うことができます。
しかし、遺言の内容に不服をもった相続人が、遺言の執行に協力しなかったり、積極的に妨害行為を行うこともあり得ます。
例えば、相続人以外のものに不動産を遺贈する、という遺言を作成した場合には、不動産の名義変更には、相続人の協力が必要です。また、全ての遺産を長男に相続させる、という遺言を書いたとしても、その名義変更を終える前に、次男が自身の法定相続分について登記を行うかもしれません。
また、こういった極端な例でなくとも、遺言の執行を行う第三者がいれば、遺言の執行はスムーズになされ、遺言者の意思は確実に実現されます。
このように、遺言の執行をスムーズに行い、遺言者の意思を確実に実現するためには、遺言書を書くだけではなく、遺言書の作成とともに遺言執行者を定めておくことが有益です。
遺言書の作成、遺言執行者への就任については、相続案件の経験が豊富な当事務所にお任せ下さい。
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